少額随意契約は、一定金額以下の契約を簡易な手続きで締結できる方式で、地方自治法施行令に定められています。近年、基準額の引き上げが進み、業務効率化やコスト削減につながっています。一方で、透明性確保のため、オープンカウンター方式との使い分けも重要です。
この記事では、少額随意契約の定義から基準額の最新動向、他の入札方式との違いまで、実務に即して徹底解説します。適正な契約事務の運用に役立つ知識を身につけましょう。
少額随意契約(少額随契)とは?メリット・デメリットを解説
少額随意契約(少額随契)とは、予定価格が一定金額以下の場合に、競争入札を行わずに契約先を直接選定できる調達方式です。地方自治法施行令に基づくこの契約方法には、手続きの簡素化による迅速な調達や地元業者の受注機会確保といったメリットがあります。
一方で、透明性の低下や特定業者との癒着リスク、新規参入の障壁になるといったデメリットも存在します。このセクションでは、少額随契の定義から実務上の利点・欠点まで詳しく解説していきます。
少額随意契約(少額随契)の定義と法的根拠
少額随意契約(少額随契)とは、地方自治法施行令第167条の2第1項第1号に基づき、予定価格が一定基準額以下の場合に競争入札を省略できる調達方式です。契約事務の簡素化を目的としており、物品購入や工事請負など契約種別ごとに基準額が設定されています。
国の基準では、工事契約は250万円以下、物品購入は160万円以下、賃貸借は80万円以下と定められています。一方、地方自治体では、2025年4月の改正により基準額が引き上げられ、例えば工事契約は300万円以下に変更された事例があります。この改正背景には、物価高騰への対応や行政事務の効率化が挙げられています。
少額随意契約が適用される場合、自治体は競争入札の手続きを省略できます。ただし、透明性確保のため契約情報の公表が義務付けられています。この制度は地元中小企業の受注機会創出に寄与する一方、適正な価格形成の観点から基準額設定が重要なポイントとなります。
少額随意契約のメリット
少額随意契約の最大のメリットは、手続きが簡素化される点です。発注者側は競争入札の手続きを省略できるため、公示から契約締結までの期間を短縮できます。特に緊急を要する案件や小規模なプロジェクトでは、迅速な対応が可能です。
地域経済への貢献も重要な利点です。地元の中小企業やこれまで実績のない新規業者でも、発注機関との直接交渉機会を得やすくなります。特に地域に密着した専門技術を要する案件では、最適な事業者を柔軟に選定できます。
特殊な技術が必要なケースや緊急対応が求められる場合、事前審査を通過した信頼できる業者と迅速に契約を結べます。これにより、品質維持と納期遵守の両立が図れる点が特徴です。
少額随意契約のデメリット
少額随意契約の最大の課題は透明性の低さです。一般競争入札と異なり複数業者との価格比較が義務付けられないため、適正価格の検証が困難になるケースがあります。特に継続的な取引実績がない業者が契約を獲得するには、発注機関との信頼関係構築が不可欠となり、新規参入の障壁となり得ます。
また、発注側が特定業者を継続利用することで市場競争が停滞する可能性があります。地域業者優先の慣行が技術革新を阻む要因となることもデメリットの一つです。
これらの課題に対応するため、2025年度の基準額引き上げでは透明性確保のため「2社以上の見積もり取得」が義務化されました。自治体によっては契約情報の公開を強化する動きも見られ、公平性と効率性の両立が今後の課題となっています。
少額随意契約と他の入札方式との違い
公共調達において、少額随意契約は他の入札方式とどのように異なるのでしょうか。このセクションでは、一般競争入札との違いやオープンカウンター方式との比較を通じて、それぞれの特徴を明らかにします。
少額随意契約と一般競争入札との違い
少額随意契約と一般競争入札の違いは、調達プロセスの透明性と効率性のバランスに表れます。
一般競争入札は原則として全ての業者が参加可能な公開方式で、透明性と公平性が最大の特徴です。発注者は技術力や価格を総合的に判断しますが、入札公告から契約締結までに時間がかかり、書類作成などの事務負担も大きくなります。
一方、少額随意契約は法定基準額以下の小規模案件に限定され、発注者が信頼できる業者を直接選定します。手続きが簡素で迅速に契約を結べるため、緊急性の高い案件や専門性が求められる業務に適しています。
主な違いを比較
| 比較項目 | 一般競争入札 | 少額随意契約 |
|---|---|---|
| 参加事業者 | 原則全企業対象 | 発注者の裁量で選定 |
| 契約期間 | 2~3ヶ月程度 | 1~2週間程度 |
| 適応案件 | 高額契約中心 | 基準額以下の小規模案件 |
透明性を重視する場合は一般競争入札が適していますが、迅速性を求める場合や小規模案件では少額随意契約が効果的です。双方の特徴を理解し、案件の性質に合わせた方式選択が重要になります。
少額随意契約とオープンカウンター方式との違い
少額随意契約とオープンカウンター方式の違いは、調達プロセスの透明性と参加機会の広さにあります。少額随意契約では発注者が特定の事業者に直接見積もりを依頼しますが、オープンカウンター方式は公募形式で広く見積もりを募集します。
見積もり取得方法の違い
少額随意契約の場合、発注者が信頼できる数社程度に限定して見積もりを依頼するのが一般的です。これに対しオープンカウンター方式では、自治体の公示を見た不特定多数の事業者が自由に参加できます。
| 比較項目 | 少額随意契約 | オープンカウンター |
|---|---|---|
| 参加事業者数 | 数社 | 5社以上も可能 |
| 透明性 | 発注者の裁量に依存 | 公募で公平性確保 |
オープンカウンター方式は少額随意契約の簡易手続きを維持しつつ、競争原理を導入することで納税者への説明責任を強化しています。ただし公募手続きの分、事務負担が若干増加する点には注意が必要です。
少額随意契約の基準額と基準額の引き上げ背景
少額随意契約の基準額
少額随意契約の基準額は契約の種類によって異なり、2025年4月1日施行の改正で大幅な引き上げが実施されました。2025年度の少額随意契約基準額は契約種別によって以下のように定められています。
| 契約種別 | 旧基準額 | 新基準額 |
|---|---|---|
| 工事・製造契約 | 250万円 | 400万円 |
| 財産購入契約 | 160万円 | 300万円 |
| 役務提供契約 | 80万円 | 150万円 |
国と地方自治体の基準額は原則同一ですが、自治体は条例で独自の金額を設定可能です。例えば中核市では児童福祉事務の処理権限拡大と連動した改正が行われています。
基準額引き上げにより、小規模プロジェクトの契約手続きが簡素化され、行政運営の効率性向上が期待されます。ただし適正性確保のため、各自治体には契約審査基準の明確化や内部統制の強化が求められています。
基準額引き上げの背景と実務への影響
基準額の引き上げは1974年の基準設定以来51年ぶりで、1970年から2025年までの企業物価指数が約1.6倍上昇したことが主な要因です。
物価高騰に加え、調達事務の効率化を図る目的も背景にあります。少額随意契約が増えることで自治体職員の事務負担が軽減され、小規模工事の発注手続きが効率化されることが期待されています。
透明性確保の新たな取り組み
基準額引き上げに伴い、予定価格の積算根拠を明確化する内部統制ルールが強化されました。また契約手続きの簡素化と透明性確保の両立を図るため、オープンカウンター方式の導入検討が進められています。
実際に引き上げを発表している自治体の例
少額随意契約の基準額引き上げを実施している自治体の具体例として、福井県敦賀市の事例が挙げられます。同市では2025年4月1日から、工事請負契約の基準額を130万円以下から200万円以下に、その他委託業務を50万円以下から100万円以下に引き上げています。
敦賀市の主な変更点
| 契約種別 | 旧基準額 | 新基準額 |
|---|---|---|
| 工事請負 | 130万円以下 | 200万円以下 |
| その他委託 | 50万円以下 | 100万円以下 |
大都市圏ではより大規模な引き上げ事例も見られますが、敦賀市のような地方都市でも財政状況や地域経済の実態に合わせた段階的な調整が進められています。今後は他の自治体でも同様の動きが広がることが予想されます。
自治体による基準額の違い〜地域差の実態と理由
地方自治体における少額随意契約の基準額は、自治体の規模や契約内容によって明確な差異があります。
この差異が生まれる背景には、自治体の財政規模や調達業務の特性が関係しています。大規模自治体は高額な契約案件が多く、効率的な調達を実現するため相対的に高い基準額を設定しています。
自治体規模別の基準額比較
| 契約内容 | 都道府県・政令市 | 市町村 |
|---|---|---|
| 工事請負 | 250万円 | 130万円 |
| 物品購入 | 160万円 | 80万円 |
| 物件貸付 | 30万円 | 30万円 |
法的根拠としては地方自治法施行令第167条の4に基づき、政令で定める金額以下の契約を少額随意契約とすることが明記されています。ただし自治体の実情に応じた柔軟な運用が認められており、地域の経済状況や物価水準を考慮した独自設定が可能となっています。
例えば人口密度が低い地域では地場業者の競争力維持の観点から、基準額を低めに設定するケースが見られます。反対に大都市圏では取引件数が多く、事務効率化のため基準額を引き上げる傾向があります。
まとめ
この記事では、少額随意契約の定義から基準額の引き上げ背景、オープンカウンターとの違いまで幅広く解説しました。公共調達における少額随意契約は、一定金額以下の契約を簡易な手続きで締結できる制度であり、効率的な調達手段として活用されています。
近年の基準額引き上げにより、行政機関の業務効率化が進む一方、透明性確保の課題も存在します。適切な運用で公共調達の効率性と公正性のバランスを保つことが重要です。

